こんにちは。ソプラノ歌手みやこです。
今日はプッチーニの遺作オペラ、「トゥーランドット」の中で
リュウという王子に付き添い、ひそかに応じを慕う女性が
冷酷な皇女「トゥーランドット」に拷問されながら訴える歌です。
歌の最後に自ら命を絶つ、壮絶で悲しい、
ドラマチックなシーンで歌われる美しい愛の歌です。
オペラ『トゥーランドット』について
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作曲者:ジャコモ・プッチーニ(Giacomo Puccini)
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初演:1926年(プッチーニ死後、未完部分はフランコ・アルファーノが補作)
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舞台:架空の古代中国・北京
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主な登場人物:
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トゥーランドット姫(冷酷で誇り高き皇女)
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カラフ(謎の王子/テノール)
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リュウ(奴隷の娘、カラフに恋している)
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シーンの背景
このアリアは第3幕に登場します。
謎解きを成功させたカラフ王子は、
冷酷なトゥーランドット姫の心を愛によって溶かそうとします。
しかし姫はカラフの名前を突き止めるために、
都じゅうに「誰も寝てはならぬ」と命じ、
リュウや彼の父・ティムールも捕らえられてしまいます。
拷問によってティムールにカラフの名を白状させようとする兵士たちに対し、
リュウは自らが「知っている」と言い、
自分が代わりに拷問されることを申し出ます。
このアリアは、リュウがトゥーランドットに向かって語りかける形で歌われます。
「あなたのように氷で心を包んでいる人間も、いつか愛に目覚める」
という内容で、リュウの無償の愛と覚悟を象徴しています。
音楽的特徴
ソプラノが歌う非常に繊細で抒情的な旋律です。
歌い手にとっては感情表現の深さと静かな強さが求められます。
リュウの清らかで一途な愛を、音楽全体が包み込むように表現しています。
歌詞・歌詞訳
| Tu, che di gel sei cinta, da tanta fiamma vinta l’amerai anche tu!Prima di questa aurora, io chiudo stanca gli occhi, perché egli vinca ancora… Per non vederlo più! |
あなた――氷のように心を閉ざしている方よ、 けれど、そんなあなたも この燃えるような愛に打ち勝たれて、 彼を愛するようになるでしょう!この夜明けが訪れる前に、 私は疲れ果てた目を閉じます―― 彼が再び勝利できるように… そして、もう二度と彼の姿を 見ることがないように。 |
歌詞解説
Tu, che di gel sei cinta
「あなた ― 氷で身を包んでいる方よ」
トゥーランドット姫の冷たい心を象徴しています。
「gel(氷)」は彼女の無感情・恐れ・過去の恨み(女性の先祖が男性に虐げられてきた歴史)を表しています。
da tanta fiamma vinta
「この激しい炎に打ち勝たれて」
「炎(fiamma)」=リュウの愛、またはカラフの情熱。
「vinta」=征服される、打ち破られる。
冷たい姫も、情熱(愛)の力でやがて心を開くだろうという予言的な言葉です。
l’amerai anche tu!
「あなたも彼を愛するようになるでしょう!」
トゥーランドットもカラフに心を奪われると、リュウは確信しています。
この言葉はリュウの悲しみと悟り、そして赦しを込めたものです。
Prima di questa aurora, io chiudo stanca gli occhi
「この夜明けの前に、私は疲れた目を閉じます」
自分が夜明けを迎える前に、死を選ぶという意味。
「chiudo gli occhi」は直訳すると「目を閉じる」ですが、文脈では「永遠に眠る=死」を表しています。
「stanca(疲れた)」という形容詞が、彼女のこれまでの苦しみと、静かな決意を物語っています。
perché egli vinca ancora…
「彼が再び勝利できるように…」
ここでの「vinca(勝つ)」とは:
命を救うこと。
トゥーランドットの心を得ること。
真実の愛を成し遂げること。
リュウは自らの死によって、カラフに道を開こうとしているのです。
Per non vederlo più!
「そして、彼の姿をもう見ないように…!」
これはこのアリアの最も切ない一節です。
リュウにとって、カラフが他の女性(トゥーランドット)を愛する姿を見ることは耐えられない。
それでも、彼の幸せを第一に願って、自らはその場を去る=死によって身を引くのです。
愛と嫉妬が入り混じった感情を、静かで深い哀しみで表現しています。